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いってきます [そらかぜ]

”ソラ”は私の憧れだった。
絵でしか見ることが出来なかったから。
私の育った所には、”ソラ”はなかったから。
私がいたところはそう、地中深い、闇の中。
だから私は、この時を待ち焦がれていた。
”外の世界”に出られる、そのときを。
ただじっと、待ってた。



「澄晴よ………。本当に、行くのだな?」

私は『はる』。本名は澄晴。でもみんな『はる』って呼んでる。
ぶっちゃけ私も『はる』って呼ばれたほうがいい。べつに自分の名前が嫌いって訳じゃないんだけど
こっちのが断然かわいい。



「ぞくちょ~。私のことは『はる』でいいっていつも言ってるじゃないですかぁ~。」

「・・・・今日ばかりはそういう訳にもいかないのだ、澄晴よ。」

「べつに掟だかなんだか知りませんけどそんなに堅っ苦しくなんなくてもいいじゃないですかっ!
 あんまりそういうことばっかいってるとハゲちゃいますよ?」

「・・・・時と場合を考えるのだ。貴様、今がどのような状況かわかっているのか?」


そんなことはさすがに私でも分かる。
私たちドミニオンは、ある一定の年齢期に達すると争いやいさかいを求めて
エミルのいる人間界に旅立つことになっている。
今はまさに私がその人間界に旅立たんとする厳かな儀式の真っ最中ってわけ。
そんなときに馴れ馴れしい口調で会話なんか出来ないんだけどね、ホントは。
でも私にとってはそんなことはどうでも良かった。

はやく”外の世界”に行きたい!

そのためにはさっさとこの”儀式”とやらをおわさなくちゃぁね。
堅苦しいのは苦手なんだけど、がまんがまん!

「了解しましたっ!族長殿!お話をお続けくださいませっ!」

しゅたっと敬礼して、私は族長の次の言葉を待つ。

「・・・・・・まったく、先が思いやられるな。」

族長は早くも呆れ気味。まぁ無理もないか。



「では、初めから行くぞ…。澄晴よ、本当に行くのだな………?」

「はいっ!」

「あの世界にはエミルの民はもちろん、我等ドミニオンの永遠の宿敵でもある
 タイタニアの民もいるのだぞ。」

「もーまんたいっ!私別にタイタニアとか差別しませんもんっ!」

「・・・・・言っても詮無きことか。」

「争い、いさかいを求めて三界を彷徨うのが我が種族の定め。
 お前にも、ついにその時が来たということなのだろう・・・・。」

「私、別にそんなことキョーミありませんよ?」

「・・・・・なんだと?」

「争いとか、イサカイとか。ぜんっぜん興味ないです。っていうか痛いことあんまししたくないです。」

「・・・・では貴様は何のために外へ出るのだ・・・?」

「”ソラ”が見たいっ!」

「・・・・・空?」

「青くて、広くて、きれいな”ソラ”!私、ずっと憧れだったの!”ソラ”を見るの。私はそれを見に行く!」

「・・・つくづく変わったヤツだな、貴様は。
 まぁよい。旅立つがいい。貴様の旅路が実り多きものになるように、私はここで祈っている。」

「よろしくっ!」

族長に向かってずいぶんと失礼な言葉を最後に私は足早に転送ポイントへ向かう。
ドキドキが止まらない。
これから、私の冒険が始まるんだ!
何が待っているんだろう!どんな人たちと会えるんだろう!
私は未知の土地へと旅立つ不安と期待で胸をいっぱいにして、

「いってきますっ!」

ただ一言、こういった。























あの小娘がいなくなって、数刻。
転送室は、元の静けさを取り戻していた。

「まったく、小うるさい娘だな・・・・。」

「でも、あの娘がいなくなっちゃうとちょっと寂しいですね。」

近くにいた転送オペレーターの一人が語りかけてきた。

「・・・・やっと静かになっただろう。」

「ふふっ、寂しいって顔に書いてありますよ。」

「・・・・・・仕事に戻れ。」

確かに、あの小娘の元気は、鬱陶しくもあり、心地良くもあった
いなくなると、急に懐かしくなるものだ・・・。
できるならずっとここに置いておきたかった。
そう思うのはエミルの世界よりあの小娘を拾ってあそこまで育ててきたからであろうか。
わからない。
だが、これだけはいえるだろう。

この旅はお前にとって、とても意義のあるものになるだろう、と。

「あの・・・族長?」

「・・・今度はなんだ」

「転送室の入り口に、こんなものが。」

「これは・・・・・」

それは見覚えがあった。
家を出るとき、あの小娘に渡した・・・・・剣。

「・・・・・・あの、馬鹿が。」


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